「シイヤ君、今度はこっちも頼むよ」
「はい!今行きます!」
ぼくは両手いっぱい薪を抱えて、ミドーさんのもとへ走り出した。
今回の依頼は、旅行に出かけているこのお家のメイド・シェイナさんの代わりに、このお家のご主人、ミドーさんと、その奥さんのお世話をするというもの。
大きな町から少し離れたお屋敷に住むミドーさんは、70歳を過ぎた今でも、とても元気で、シェイナさんによると、元気すぎて自分で何でもしようとするので、メイドとしてはもうちょっと弱ってほしい、とのこと。
反対に奥さんは、体が弱く、シェイナさんがいつも話し相手になっていた。
でも、シェイナさんは、ずっと休みも取らず奥さんにつきっきりでいたら、たまには休みなさい、と言われてしまったそう。
『奥様のお言葉に甘えて、男探しの旅にメイド仲間と行ってきます。なので、奥様の話し相手になってくださいませんか』
シェイナさんは、美人だ。
鼻筋のすっとした顔に、ぱっちりした目、つややかな黒髪で、とっても綺麗な人だと思った。
男探しと聞いて、ぼくはロイさんはどうだろう、とつい考えてしまった。
ロイさんだって、実はとてもかっこいい。
どうなのかなーと思って、ロイさんの顔をちらっと見たけれど、興味がないどころか、ものすごく眠たそうな顔をしていて、これはだめだな、と、ナジカと顔を見合わせてため息をついた。
シェイナさんが出かけてから、ぼくらは住み込みで一週間、ミドーさんのお屋敷でお手伝いをした。
ミドーさんは、孫ができたようだと喜んでくれて、ぼくはずっとミドーさんと薪割りや食材集めをしていた。
ナジカは言葉を話せないけれど、ぼくと同じように奥さんはナジカの言いたいことがわかるみたいで、それが嬉しいのか、ナジカは奥さんとずっと『お話し』していた。
それからぼくらは、ロイさんの料理や家事の手際のよさに驚かされた。
今までも思っていたけれど、ロイさんの料理は本当においしい。
一回一回、どうやったら森の中でこんなのが作れるんだろうと思うくらい、手の込んだ料理を作ってくれて、ぼくらはいつも感動していた。
それが、今回の依頼で、シェイナさんの代わりにミドーさんや奥さんのための料理を作ることになって、ものすごい本領を発揮した。
ロイさんはぼくらのことも考えて、毎回量を多めに作ってくれるんだけど、あんまりおいしいから、ぼくらは太ってしまうんじゃないかってくらい、毎日たくさん食べた。
料理だけじゃなく、掃除も洗濯も、ロイさんは何でもこなした。
「ロイくんは、お母さんみたいだなぁ」とミドーさんに笑われてしまうのも無理ないな、と、シェイナさんが置いていったひらひらのエプロンをつけたロイさんが、活き活きと料理を作るのを見て、ナジカとうなずき合ってしまった。
奥さんは水晶占いが得意で、ぼくらのことも占ってくれた。
あんまり興味ないんだけど……そういうと、ナジカがむくれてしまったので、ぼくも参加した。
ロイさんは、「あなたは、女運が……綺麗な人はたくさんよってくるけれど、変わった人ばかりで、よく振り回される運命ね」と言われて、何か思い当たる節があるのか、青ざめた顔で深く頷いていた。
「これから、たくさん大好きな人ができるわ。その人たちと仲良くね」と言われて嬉しそうにしていたのは、ナジカだった。
ぼくも占ってもらったんだけど、奥さんは困ったように笑って、「あなたは、まだ幼いのに……いえ、何でもないわ。あんまり困ったことがあったら、ロイさんに言うのよ」としか言ってくれなかった。
なんだろう、何となくだけれど、この占いの流れとロイさんの哀れむような顔からして、たぶんぼくも女運が無いってことなんじゃないかな。
ミドーさんたちと過ごす一週間は、あっという間に過ぎてしまった。
今日は、シェイナさんが帰ってくる日だ。
予定では、夕飯の前頃に帰ってくるということだった。
でも、なかなかシェイナさんは帰ってこなかった。
帰ってこないシェイナさんの代わりにロイさんが料理を作り、みんなでそれを全部食べ終わってしまっても、シェイナさんが帰ってくる気配はなかった。
すると、奥さんの所にいたナジカが、ものすごい剣幕で走ってきた。
「ナジカ?どうしたんだ?」
ナジカは必死に、ぼくとロイさんの服を引っ張り、奥さんのもとへ連れて行こうとする。
その様子から、何かよくないことが起きたということは一目瞭然だった。
ぼくはナジカを抱えて、奥さんのもとへ走った。
奥さんは、水晶玉を厳しい顔で覗き込んでいた。
「ロイさん……シェイナは、帰ってこないかもしれないわ」
青ざめた顔で、奥さんがつぶやく。
「さっき、ナジカちゃんと一緒にシェイナがどこにいるか占ってみたの。そうしたらーー」
そこまで言うと、奥さんは急に咳き込んだ。
ナジカが心配そうに背中をさすり、奥様は少し微笑んでナジカに大丈夫だと言ってから、続けた。
「シェイナと女の子がもう一人、男たちに無理矢理連れていかれるのが見えたの。そのあとは、わからないけれど……」
「男たちの特徴は、わかりませんか」
「ええ……そういえば、身なりはよくなかったけれど、妙に高価そうなそろいの剣を持っていたわ」
ロイさんはそれを聞くなり、奥さんの部屋から飛び出していった。
ぼくらもロイさんを追いかけて走り出す。
部屋に戻ったロイさんは、剣をつかみ、コートを着て再び走り出した。
外に出て、町の方へ向かって駆けていく。
「ロイさん、どこへ向かっているんですか!?」
ぼくが声をかけたとき、ロイさんが急にぴたっと止まった。
振り返ってぼくらを見ると、顔をしかめた。
「……なんで、ここにいる。危険だ。屋敷で待っていろ」
険しい顔をして、ロイさんはぼくらに言った。
「お前たちを売ろうとした奴らは、その辺のごろつき程度の相手だった。今度は、違う。そろいの剣を持つ男たちは、”血錆”という組織の下っ端だ。そいつら自体は対したことはないが、上の方の連中は、無駄に力を持っている。へたに手を出して逃がしたら、後が面倒だ。
ーー始末するのに、お前たちは邪魔だ」
そのときのロイさんは、今までには見た事もないような、暗い目をしていた。
「ロイさん……始末って、もしかして、殺すんですか?シェイナさんたちをさらった奴らを」
ロイさんは、答えない。
その沈黙が、答えだった。
「そもそも、奥さんの占いを信じ過ぎじゃないですか?もしかしたら、予定がずれてるだけかも……」
「それは、ない。彼女の占いに間違いはないだろう。彼女は、魔力は弱いが、ウィザードだ」
「ウィザードって……魔法が使えるってこと?」
「お前の考えているようなのが使えるのかは知らないが、少なくとも占いに関しては、彼女の力がちゃんと働いているようだな」
とにかく、お前たちは戻れ、とロイさんがぼくらをもと来た道へ押し返そうとしたときだった。
「やっと見つけたぜ、ロイ!」
木の上から、突然声がしてーー
気づいたときには、ロイさんが鞘で大きな剣を受け止めていた。
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プロフィール
HN:
まめがら茶
性別:
女性
自己紹介:
色んな世界の物語を書いています。
大体は異世界・現代ファンタジー。
好きな小説は、
上橋菜穂子さんの『狐笛のかなた』、
荻原規子さんの『白鳥異伝』、
香月日輪さんの、大江戸妖怪かわら版シリーズ。
和を感じられるお話が好きです。
それから、アレックス・シアラーさんの『チョコレート・アンダーグラウンド』も、何度か読み返しました。
佐竹美穂さんの挿絵が小さい頃から好きだったのですが、
小学一年生の時に上橋さんの『虚空の旅人』と一緒に
分厚い上中下巻の『封神演義』を読んだのは無謀だったかな……
絵は、一番好きなのはアルフォンス・ミュシャ、特に『黄道十二宮』です。
大体は異世界・現代ファンタジー。
好きな小説は、
上橋菜穂子さんの『狐笛のかなた』、
荻原規子さんの『白鳥異伝』、
香月日輪さんの、大江戸妖怪かわら版シリーズ。
和を感じられるお話が好きです。
それから、アレックス・シアラーさんの『チョコレート・アンダーグラウンド』も、何度か読み返しました。
佐竹美穂さんの挿絵が小さい頃から好きだったのですが、
小学一年生の時に上橋さんの『虚空の旅人』と一緒に
分厚い上中下巻の『封神演義』を読んだのは無謀だったかな……
絵は、一番好きなのはアルフォンス・ミュシャ、特に『黄道十二宮』です。
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