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腐りかけの豆が、何ヶ月にいっぺん小説を吐き出す場。 主にtwitterに生息。 せめて2ヶ月にいっぺんくらいの更新に持っていきたい。
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女は、一生懸命フォークを動かしていた。
それを男は、ぽかんと見つめている。

「私、小食なんだ。食べたくても食べられないの」

女はイクラとサーモンのクリームパスタとフォークから、目を離さずに言った。

「いつも頑張って食べるんだけど、結局いつも気持ち悪くなって、ギブアップしちゃうの」

女の手は休まることなく、フォークをくるくると回している。

「でね、特に残して悔しいのがパスタなの。大好きだから」

くるくる、くるくる。

「食べきれなくて残しちゃったのを見て、とっても悲しくなるの。だから、思いついたの」

彼女の手は、ひたすらパスタをくるくるとまとめては、皿に並べていた。
綺麗に渦を巻いて並んだパスタは、さながら、ピンクの湖に浮かんだバラの花のようだった。
ところどころに散らばるイクラも、その生臭さを微塵も感じさせない美しさを放っている。

「こうやって、パスタを巻いておくの。一種のノルマだね。後一つだけ食べよう、とか、もうだいぶ食べたとか、こうやってまとまっていると、諦めもつくの」

ようやく巻き終えた女が、男を見てにっこり笑った。

「食べ物で遊んじゃいけないって言う人もいる。でも、私は大好きなパスタで悲しみたくないの。おいしいところでやめておきたいの。吐き気がするほど無理して食べて後悔したくないし、ぐちゃぐちゃで大量に残ったパスタを見るのは、かえって食材に申し訳なくて……」

ちらっと皿に視線を落とし、愛しそうにパスタを見つめた。
もう一度顔を上げると、彼女は男にむかって、はにかんだ。

「私、大好きなの。パスタ」

(なぜ……)

男は、出かかった言葉を飲み込んだ。

(なぜ、彼氏である俺ではなく、パスタが一身に愛情を受けているんだ……
そして、何だ、この気持ちは……何故、俺がパスタに嫉妬しなければならないんだ……)

彼は内心、地に両膝を着いて、落胆していた。

しかし……

綺麗に渦を巻いたパスタを幸せそうに頬張る彼女を見ていると、つい自然に微笑んでしまうのだった。
女はその視線に気づいて、男と目を合わせた。
みるみるうちに顔が赤くなり、あたふたと視線をそらす彼女を、たとえほんの少し、いや、かなり変わったところがあったとしても、つい愛しいと思えてしまって、また微笑みをこぼした。

女は気を取り直し、さらにもう一度向かい合う。
パスタをすくい取ろうとした、そのとき。

パスタが彼女のフォークをさけるように、皿の上を滑った。

「……うん?」

女がもう一度同じ固まりをすくい取ろうとするが、またしても逃げられてしまう。

すると、六つほど残っていたパスタの渦が、くるくると回りだした。

「な、何?」

くるくると回っているパスタは、どんどん回転数を増し……
ぽーんと、跳ねた。

「うひゃあ!」 

女は驚いて、もっていたフォークを放り投げる。
床に落ちて、キンッという音が響いたが、男も女もそれどころではなかった。

「だ、大丈夫か?いったいなんなんだ……?」

跳ね上がったパスタたちは、女の目の前でくるくるっと回ると、どこかへ飛んでいってしまった。

女はしばらく呆然としていたが、徐々に情けなく顔を歪ますと、こういった。

「うう……まだ食べられたのにぃ……」

「そこは問題じゃないだろ!」

男はあきれながらも、女の頭をなでた。

「ほら、泣かないで。まだあと一つのこってるよ。なんだかよくわからないから、食べない方がいいと思うけれど……」


「ううん……食べる。おいしーんだもん」

一度目元をぐいっと拭うと、また笑って、フォークをナプキンで拭いてから、皿に残っている一塊に手を伸ばした。
するとまた、パスタがくるくると回りだす。
最後の一輪のパスタの花は、渦の中心に二粒の真珠のようなイクラを抱えて、飛び跳ねた。

2人の目線の高さまで来たとき、急に目にもとまらぬ早さで回転し始めた。
そして、ものすごい勢いで渦の中からイクラが飛び出した。

「はっ」

女はそれを、人間とは思えない反射神経でよけた。
男は残念ながら、美しくも生臭いその物体を顔面で受けることになったが。

「ぐはっ」

パスタはそのまましばらく回転していたが、空中でぴたっと停止した。
そのパスタの渦の一部が口のようにぱかっと開いて、ぱくぱくとしたかと思うと、

「人前でイチャイチャすんな、リア充爆発しろ」

と吐き捨てて、どこかへ飛んでいってしまった。


残ったのは、クリームとイクラが数粒残っている皿と、呆然とした男と、恐怖よりもおかしさが勝ってゲラゲラ笑っている女だけだった。


ひとしきり笑うと、女は笑い涙を拭いながら、言った。

「こんな変なこと、あなたとじゃなきゃ、きっと笑う余裕なんかなくて、怖くて逃げ出してるわ。やっぱりあなたじゃなきゃね」

(妙なことがあったが……今しかない)

「あのさ」

「何?」

「たぶん、さっきの、お前が食べ物によっぽど深い愛情を注げたから、なったんだと思うんだ。
その愛情、食べ物だけじゃなくて、俺にも注いでくれたら嬉しい。できたら、一生。
俺と結婚してください」

そう言って取り出したのは、イクラの……ではなく、きらりと輝くダイヤモンドの婚約指輪だった。

女は、ひどく驚いた風だったが、目に涙を浮かべて、大きく頷いた。

「よかった……俺、幸せにす……ぶへっ」

言いかけたとき、皿に残っていたイクラが飛び跳ねて、男のあごに直撃した。

イクラは皿に戻ると、ぶつかった衝撃であいた穴と残ったソースで、何かを書き始めた。


そこに書いてあったのは……



『末永く爆発しろ』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

すみません。特に何が書きたいってわからなくなってしまいましたが、たぶん、
『食べ物は粗末にするな』と
『認め合える人となら幸せになれる』と
『リア充爆発しろ』だと思います

くるくるまとめるのは、私の癖です。
口も胃も小さく、あまり食べられないので、うどんも下手すると一本ずつ、パスタは上の通り、フォークでくるくるひたすら巻いて、ノルマを作ってから食べます。
残ったものは逃げずに、大体一緒に食べてる人のお腹の中に収まってくれます(笑)
やっぱり、たくさん食べられる人っていいですね。



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photo by 七ツ森  /  material by 素材のかけら
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プロフィール
HN:
まめがら茶
性別:
女性
自己紹介:
色んな世界の物語を書いています。
大体は異世界・現代ファンタジー。


好きな小説は、
上橋菜穂子さんの『狐笛のかなた』、
荻原規子さんの『白鳥異伝』、
香月日輪さんの、大江戸妖怪かわら版シリーズ。
和を感じられるお話が好きです。

それから、アレックス・シアラーさんの『チョコレート・アンダーグラウンド』も、何度か読み返しました。

佐竹美穂さんの挿絵が小さい頃から好きだったのですが、
小学一年生の時に上橋さんの『虚空の旅人』と一緒に
分厚い上中下巻の『封神演義』を読んだのは無謀だったかな……

絵は、一番好きなのはアルフォンス・ミュシャ、特に『黄道十二宮』です。

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