夜の森は、まっくらで、ちょうど満ちた月明かりだけが、あたりを照らしていた。
ぼくらは必死に走って、何度も転びながら、森の中を走った。
後ろからは、何人もの人が追いかけてくる音がする。
怖い。
だけど、ナジカだけは、守ってみせる。
ぼくらは手をつないで、森を駆け抜けた。
目の前の木々が、だんだん薄くなっていく。
目の前が、開けた——
ぶみ。
ぼくらは何かにつまずいて、ものすごい勢いでその上に転んだ。
「ぐえ」
転んだけれど、痛くない。
ぼくらはそっと起き上がって、つまずいた原因を見つめた。
正確には、今自分たちが乗っかっている物体が何か、確認した。
「……いたい」
「わ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
ぼくは慌ててナジカを抱えおろして、その背の高い、黒髪の男の人を見た。
この人はどうやらここで、野宿をしていたらしい。
「……ああ」
男の人は立ち上がって、ぼくらを見た。
「……汚い」
「え?」
ぼくとナジカは、お互いを見て、思わず吹き出した。
森の中を走って、何度も転んだから、どろんこまみれだったんだ。
男の人は、眉をひそめて、ぽつりと言った。
「どこから」
「どこから?来たか?」
そこで、ぼくらは大事なことを思い出した。
「そうだ、ナジカ、逃げなきゃ……」
気付くのが、遅かった。
「見つけたぞ……!」
ぼくらは、男たちに囲まれてしまった。
「手間かけさせやがって……しかし、確かに上玉のようだな……よし、50万レクでどうだ」
さっきおじさんと話していた男が、嫌な笑いでナジカを見た。
「はっ……冗談だろ……エルフだぞ?500万レクはくだらねえ代物のはずだぜ?ケチりすぎだろうが」
ぼくは、ナジカを後ろに隠した。
ナジカには、指一本触れさせない。
「……何事」
ぼくは、気づいた。
さっきのお兄さんも巻き込んでしまった。
そういえば、この背の高いお兄さん、剣を持ってる。それも、なまくらとは思えない、きれいな模様が、さやに入ってる。
それに、こんな状況でも、こんなにのんびりしてるなんて、絶対にただ者じゃない!
「お兄さん、お願い!助けて!」
「は?……俺がか」
「何をごちゃごちゃと言っているんだ?さあ、こっちへこい」
男が、ぼくとナジカを引き離そうとする。
「放せ!ナジカは渡さない!俺の大事な妹なんだ!」
ふっと、男の手が離れた。
見ると、お兄さんが男の片腕をつかんで、つり上げていた。
「……これでいいか」
ぼくらは口を開けたまま、固まってしまった。
「何をする!放せ!お前たち、何だまって見ているんだ!こいつをなんとかしろ!」
周りにいた、力の強そうな男たちが、ぼくらを取り囲んだ。
お兄さんはちょっと首を傾げて、それから男をぽいっと男たちでできた壁の向こうに放り投げた。
「放したが、だめか」
「だめに決まってんだろうが!やれ!」
頭をぽりぽりとかいて、お兄さんはため息を付いた。
それからぼくらを見て、もう一度ため息をつくと、面倒そうに剣を握った。
さやからは抜かなかった。
「お兄さん、剣……」
「……何故俺が人を殺さなければいけないんだ」
不愉快そうに、お兄さんは答えた。
どうやら、斬るものとして使う気はないらしい。
「こんなにいっぱいいるのに?大丈夫なの?」
するとお兄さんは、ふっと笑った。
「……子どもは、余計な心配をせず、笑っていればいい」
こんな状況で笑えるやつなんかいないと思ったけれど、少しだけ笑ったお兄さんがあんまりにもかっこよくて、ぼくもナジカも、思わず息をのんだ。
そこからは、一瞬だった。
裾の少し広がったコートが、動きにあわせてひらりと揺れる。
お兄さんが一振りするだけで、周りにいた男たちはみんなきれいに倒れていく。
まるで踊るように、お兄さんは筋肉質の男たちをみんな倒してしまった。
「くそ……おまえ、何者だ?普通の旅人じゃねえな」
おじさんが、苦しそうに言った。
「いや……ただの雇われ屋だ。少なくとも、自分ではそう思っている」
お兄さんはこともなげに言った。
おじさんたちは、気絶した男たちをおいて逃げてしまった。
お兄さんは、こんなむさ苦しい奴らが転がっていては落ち着けないと、荷物をまとめて、どこかへ行こうとした。
「あ……待ってください!」
ぼくは思わず、お兄さんの腕をつかんだ。
「……何だ?」
「ぼくとナジカは、行くところがないんです。お願いです。連れてってください……」
自分でも、どうしてそんなことが言えたのかわからない。
お兄さんを踏みつけて、巻き込んだのに、その上連れてってくれだなんて、よく言えたなって、思った。
でも、この人に付いていけば、大丈夫だって思った。
「ぼく、ナジカを守りたいんです。だけど、ぼくには力がない。だから、あなたに守ってもらいたいんです」
「……それは、依頼か?」
ぼくは、少し戸惑ったけれど、はい、と答えた。
「でも、ぼくにはお金がないし……」
「冗談だ」
ぼくらは、お兄さんを見た。
「金など、いらない。そのかわり、お前は俺の仕事を手伝え」
「え……それだけでいいんですか?」
ロイさんは、ぼくとロイさんを不安そうに見ているナジカの頭をくしゃっとなでてから、ぼくをまっすぐ見た。
「妹を守ろうとするお前のことが、気に入った。身の守り方やいろいろなことを、教えてやる。自分でその子を守れるようになるまで、ついてきたらいい。強くなれ」
ぼくは、ほんの少しのあいだ、嬉しくて何も考えられなかった。
ナジカは、すごく嬉しそうに笑って、ぼくの服を引っ張っていた。
「お……お願いします!」
二人で喜んで飛び跳ねていると、お兄さんがぽつりと言った。
「ロイ」
「え?」
「名前」
自分のことを指差して、お兄さんーーロイさんは、言った。
そして、ぼくのことを指差して、首を傾げた。
「ぼくは……シイヤです。シイヤ・ダンセン。それから、妹のナジカです」
ロイさんは頷くと、ぼくらに背を向けて歩き出した。
ぼくらはあわてて、ロイさんを追いかけた。
いつの間にか空には、朝焼けが広がっていた。
ぼくらは必死に走って、何度も転びながら、森の中を走った。
後ろからは、何人もの人が追いかけてくる音がする。
怖い。
だけど、ナジカだけは、守ってみせる。
ぼくらは手をつないで、森を駆け抜けた。
目の前の木々が、だんだん薄くなっていく。
目の前が、開けた——
ぶみ。
ぼくらは何かにつまずいて、ものすごい勢いでその上に転んだ。
「ぐえ」
転んだけれど、痛くない。
ぼくらはそっと起き上がって、つまずいた原因を見つめた。
正確には、今自分たちが乗っかっている物体が何か、確認した。
「……いたい」
「わ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
ぼくは慌ててナジカを抱えおろして、その背の高い、黒髪の男の人を見た。
この人はどうやらここで、野宿をしていたらしい。
「……ああ」
男の人は立ち上がって、ぼくらを見た。
「……汚い」
「え?」
ぼくとナジカは、お互いを見て、思わず吹き出した。
森の中を走って、何度も転んだから、どろんこまみれだったんだ。
男の人は、眉をひそめて、ぽつりと言った。
「どこから」
「どこから?来たか?」
そこで、ぼくらは大事なことを思い出した。
「そうだ、ナジカ、逃げなきゃ……」
気付くのが、遅かった。
「見つけたぞ……!」
ぼくらは、男たちに囲まれてしまった。
「手間かけさせやがって……しかし、確かに上玉のようだな……よし、50万レクでどうだ」
さっきおじさんと話していた男が、嫌な笑いでナジカを見た。
「はっ……冗談だろ……エルフだぞ?500万レクはくだらねえ代物のはずだぜ?ケチりすぎだろうが」
ぼくは、ナジカを後ろに隠した。
ナジカには、指一本触れさせない。
「……何事」
ぼくは、気づいた。
さっきのお兄さんも巻き込んでしまった。
そういえば、この背の高いお兄さん、剣を持ってる。それも、なまくらとは思えない、きれいな模様が、さやに入ってる。
それに、こんな状況でも、こんなにのんびりしてるなんて、絶対にただ者じゃない!
「お兄さん、お願い!助けて!」
「は?……俺がか」
「何をごちゃごちゃと言っているんだ?さあ、こっちへこい」
男が、ぼくとナジカを引き離そうとする。
「放せ!ナジカは渡さない!俺の大事な妹なんだ!」
ふっと、男の手が離れた。
見ると、お兄さんが男の片腕をつかんで、つり上げていた。
「……これでいいか」
ぼくらは口を開けたまま、固まってしまった。
「何をする!放せ!お前たち、何だまって見ているんだ!こいつをなんとかしろ!」
周りにいた、力の強そうな男たちが、ぼくらを取り囲んだ。
お兄さんはちょっと首を傾げて、それから男をぽいっと男たちでできた壁の向こうに放り投げた。
「放したが、だめか」
「だめに決まってんだろうが!やれ!」
頭をぽりぽりとかいて、お兄さんはため息を付いた。
それからぼくらを見て、もう一度ため息をつくと、面倒そうに剣を握った。
さやからは抜かなかった。
「お兄さん、剣……」
「……何故俺が人を殺さなければいけないんだ」
不愉快そうに、お兄さんは答えた。
どうやら、斬るものとして使う気はないらしい。
「こんなにいっぱいいるのに?大丈夫なの?」
するとお兄さんは、ふっと笑った。
「……子どもは、余計な心配をせず、笑っていればいい」
こんな状況で笑えるやつなんかいないと思ったけれど、少しだけ笑ったお兄さんがあんまりにもかっこよくて、ぼくもナジカも、思わず息をのんだ。
そこからは、一瞬だった。
裾の少し広がったコートが、動きにあわせてひらりと揺れる。
お兄さんが一振りするだけで、周りにいた男たちはみんなきれいに倒れていく。
まるで踊るように、お兄さんは筋肉質の男たちをみんな倒してしまった。
「くそ……おまえ、何者だ?普通の旅人じゃねえな」
おじさんが、苦しそうに言った。
「いや……ただの雇われ屋だ。少なくとも、自分ではそう思っている」
お兄さんはこともなげに言った。
おじさんたちは、気絶した男たちをおいて逃げてしまった。
お兄さんは、こんなむさ苦しい奴らが転がっていては落ち着けないと、荷物をまとめて、どこかへ行こうとした。
「あ……待ってください!」
ぼくは思わず、お兄さんの腕をつかんだ。
「……何だ?」
「ぼくとナジカは、行くところがないんです。お願いです。連れてってください……」
自分でも、どうしてそんなことが言えたのかわからない。
お兄さんを踏みつけて、巻き込んだのに、その上連れてってくれだなんて、よく言えたなって、思った。
でも、この人に付いていけば、大丈夫だって思った。
「ぼく、ナジカを守りたいんです。だけど、ぼくには力がない。だから、あなたに守ってもらいたいんです」
「……それは、依頼か?」
ぼくは、少し戸惑ったけれど、はい、と答えた。
「でも、ぼくにはお金がないし……」
「冗談だ」
ぼくらは、お兄さんを見た。
「金など、いらない。そのかわり、お前は俺の仕事を手伝え」
「え……それだけでいいんですか?」
ロイさんは、ぼくとロイさんを不安そうに見ているナジカの頭をくしゃっとなでてから、ぼくをまっすぐ見た。
「妹を守ろうとするお前のことが、気に入った。身の守り方やいろいろなことを、教えてやる。自分でその子を守れるようになるまで、ついてきたらいい。強くなれ」
ぼくは、ほんの少しのあいだ、嬉しくて何も考えられなかった。
ナジカは、すごく嬉しそうに笑って、ぼくの服を引っ張っていた。
「お……お願いします!」
二人で喜んで飛び跳ねていると、お兄さんがぽつりと言った。
「ロイ」
「え?」
「名前」
自分のことを指差して、お兄さんーーロイさんは、言った。
そして、ぼくのことを指差して、首を傾げた。
「ぼくは……シイヤです。シイヤ・ダンセン。それから、妹のナジカです」
ロイさんは頷くと、ぼくらに背を向けて歩き出した。
ぼくらはあわてて、ロイさんを追いかけた。
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プロフィール
HN:
まめがら茶
性別:
女性
自己紹介:
色んな世界の物語を書いています。
大体は異世界・現代ファンタジー。
好きな小説は、
上橋菜穂子さんの『狐笛のかなた』、
荻原規子さんの『白鳥異伝』、
香月日輪さんの、大江戸妖怪かわら版シリーズ。
和を感じられるお話が好きです。
それから、アレックス・シアラーさんの『チョコレート・アンダーグラウンド』も、何度か読み返しました。
佐竹美穂さんの挿絵が小さい頃から好きだったのですが、
小学一年生の時に上橋さんの『虚空の旅人』と一緒に
分厚い上中下巻の『封神演義』を読んだのは無謀だったかな……
絵は、一番好きなのはアルフォンス・ミュシャ、特に『黄道十二宮』です。
大体は異世界・現代ファンタジー。
好きな小説は、
上橋菜穂子さんの『狐笛のかなた』、
荻原規子さんの『白鳥異伝』、
香月日輪さんの、大江戸妖怪かわら版シリーズ。
和を感じられるお話が好きです。
それから、アレックス・シアラーさんの『チョコレート・アンダーグラウンド』も、何度か読み返しました。
佐竹美穂さんの挿絵が小さい頃から好きだったのですが、
小学一年生の時に上橋さんの『虚空の旅人』と一緒に
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